「個別支援計画書を活用した取り組み」 ご質問とコメント(5/6)

九州で救護施設の施設長をされている方から、個別支援計画についてご質問をいただきました。
質問は、研究協議会の開催に当たり分科会での議論に向けて出たものだそうです。
このご質問と、私がお返ししたコメントをご紹介します。

【質問5】施設(利用者)によって自立支援というより、現状維持、安定が目標になることもあり得るが、アセスメント、現計画書でまかなえない範囲が出てくるのではないか。そのような場合、どのように対応しているかお尋ねしたい。

自立支援が困難な利用者において、現状維持や安定が目標となることは当然あり得ます。参加各施設の対応状況については会場で発言を求める必要があります。 ここでは、アセスメントや現行の計画書では対応しきれない範囲への対応策を例示します。

1 現状維持・安定を明確な目標として設定する
(1)「QOLの維持・向上」を最上位の目標にする
自立支援だけでなく、利用者の「QOL(Quality of Life)の維持・向上」を最上位の目標に設定します。これには、心身の安定、苦痛の緩和、尊厳の保持、安心できる環境の提供などが含まれます。たとえば、「毎日穏やかに過ごせる時間を確保する」「好きな活動を継続し、笑顔が見られる頻度を維持する」といった目標設定が考えられます。

(2)リスクアセスメントを徹底する
現状維持を脅かす可能性のあるリスク要因(転倒、誤嚥、感染症、褥瘡、精神状態の悪化、行動障害の出現など)を詳細にアセスメントし、それらのリスクを最小限に抑えることを具体的な目標にします。 たとえば、高温多湿な気候における脱水や熱中症リスク、感染症(特に施設における高齢者の集団感染)リスクへの予防策を計画に明記し、職員全体で共有・実践します。

(3)「安定」を個別的に再定義する
その利用者にとっての「安定した状態」が具体的にどのような状態かを、個別のアセスメントに基づいて再定義します。たとえば、「発熱がない状態」「表情が穏やかな状態」「特定の行動障害が週に〇回以下に抑えられている状態」などと具体的に定義します。

2 アセスメント・計画書でまかなえない範囲への対応
(1)「微細な変化」を重視する、多職種連携で支援する
現状維持が目標の利用者においては、大きな変化は少なくても、小さな体調の変化や表情の変化、食欲の変化など、微細なサインが非常に重要になります。日々の記録では、これらの変化を詳細に記述し、早期に異常を察知できるよう努めます。

医療職(嘱託医師、看護師)と密接に連携することはもちろん、必要に応じて病院や地域の精神科病院、保健所など、外部の専門機関への相談を積極的に行い、専門的視点でのアセスメントや助言を得ます。

(2)「行動の背景」を継続的に探究する
特定の行動(徘徊、拒否、独語など)が個別支援計画に記載された支援で解決しない場合、その行動の背景に隠された身体的・精神的な苦痛や欲求がないかを継続的に探ります。たとえば、特定の時間帯に落ち着かない場合、その時間帯の室温や光の入り方、他の利用者の状況など、環境要因を細かく観察します。

(3)緩和ケア的な視点を取り入れる
救護施設ではあまり見られませんが、もし終末期や重度化により自立支援が困難になった場合は、緩和ケア的視点を取り入れ、身体的・精神的苦痛の緩和、尊厳の維持、心地よさの追求を個別支援計画の中心に据えることも検討します。たとえば、好みの音楽を聴く、アロマセラピーを取り入れる、好きな食べ物を少量でも提供するといった、QOL向上に資する支援を計画に盛り込むことが考えられます。

(4)危機管理計画と地域連携
現状維持が目標であっても、急変のリスクは常に存在します。施設には具体的な緊急時対応マニュアル(危機管理マニュアル)があると思います。これを個別支援計画と連動させて職員全員で共有します。地域の消防署、協力医療機関などとの連携体制を事前に確認します。スムーズな対応ができるように訓練が実施できれば最善です。

(5)介護ロボットやIoTの活用を検討する
福祉施設でも導入が進みつつある見守りセンサーや排泄センサーなど、介護ロボットやIoT技術を導入することで、利用者の身体的負担を軽減し、かつ職員の見守り負担を軽減できます。これにより、よりきめ細やかな個別支援に時間を充てることができます。