九州で救護施設の施設長をされている方から、個別支援計画についてご質問をいただきました。
質問は、研究協議会の開催に当たり分科会での議論に向けて出さたものだそうです。
このご質問と、私がお返ししたコメントをご紹介します。
【質問1】
各施設において個別支援計画の記入方法や文言の統一など、具体的に設定されているルールがあれば参考にしたい。
記入方法や文言を、施設や地域内で統一する主旨
個別支援計画作成において、記入方法や使用する文言などに一定のルールを設けることは、質の高い個別支援計画を作成する際の基本です。
適切に整理されたルールは、正しい様式の活用につながります。
様式を正しく活用することで個別支援計画書の主旨に合った支援計画の作成がしやすくなります。
また、個別支援計画(案)のカンファレンスや、施設内外で行われる研修や実践研究での共有が容易になることで、作成者以外の知見を個別支援計画に反映できるようになります。
質の高い個別支援計画は、作成する職員個人の力量だけでなく、施設内で行うカンファレンスでの検討、スーパービジョンにおけるスーパーバイザーからの助言、施設内外で行われる実践研究(事例研究)や研修会などでの発表や協議によって実現されます。
これらを通じて、職員や施設、ひいては地域の実践力を向上させることが期待できます。
本項では、一般論として個別支援計画の作成について設定した方がよいと思われるルールを示します。地区の各救護施設で設けられている個別具体的なルールについては、この分科会に参加されている施設からのご発言によって共有してください。
1 記入項目の明確化と様式統一
(1)地域での多機関多職種の連携を意識した項目設定
様式の各項目は、それぞれの施設の活動エリア内にある他の機関(医療機関や相談機関など)との連携を視野に入れて、共通して必要となるであろう項目設定や理解しやすい記入方法についてあらかじめ検討し消えておく必要があります。
たとえば、「基本情報」には、緊急連絡先、既往歴、服薬状況などを記入します。その際、利用者を支援する場合に連携することが想定される相手が求めるレベルを意識して情報を盛り込む必要があります。
また、以前に伝えた情報が変った場合、連携先にできるだけ早く新しい内容を伝えることも必要です。これらのことで多機関多職種の連携がスムーズに行えます。またこれを継続することによって施設から発信する情報の信頼感も高められるでしょう。
多機関と情報を共有する場合は、用語が相手の分野ごとに意味が異なる可能性があることに留意して取り違えがないようにしなければなりません。
この配慮は施設から他の機関だけでなく、他の機関から施設についても相互に行われる必要があります。
たとえば、入所時に病院から送られてきたサマリーに「歩行可能」とあれば、救護施設は「外出時の介助は必要ない」と受け止めるでしょう。しかし、病院の意図は「病棟内の廊下を一人で歩くことができる」といった程度の自立度であるかもしれません。この時、救護施設が病行からの「歩行可能」という申し送り内容を誤解したまま利用者の介助計画を組むと、外出行事の際に利用者が集団の速度に合わせて歩くことができず苦痛を感じるかもしれません。
このような意味の取り違えを避ける方法としては、ICF(国際生活機能分類)の表現を援用することなどが考えられます。ICFは、医療、保健(リハビリ)、福祉の3分野における共通言語にすることを意図していますので、こういう場合役に立つでしょう。
なお、それぞれの救護施設で個別支援計画書の記入方法について検討される際には、厚生労働省から令和6年10月1日に発出された『救護施設及び更生施設における個別支援計画の作成について』(社援発1001第4号)、および『個別支援計画の作成に関するQ&A』もあわせてご覧いただくようお願いします。
(2)文言の統一と標準化
①専門用語の平易化
個別支援計画は、福祉事務所など他の機関や施設内外のさまざまな職種の目に触れます。作成にあたっては、できるだけ専門用語を避けて分かりやすい言葉で記載することを心がけましょう。定義された用語を使う必要がある場合など専門用語を用いる場合は、必要に応じて補足説明を加えるとよいでしょう。
②標準的な用語で記入する
また、各地の救護施設では、それぞれの地区特有の用語や表現が見られます。さらに「利用者の希望・要望」などに記入される利用者各々の発言が「方言」で記述されている例も見られます。基本は、法律や制度の実施要項などに記されている標準的な用語で記入することです。その上で、地区特有の用語や表現、あるいは方言での記述が必要と考えた場合は、その用語について説明を補足するなどの配慮が必要になるでしょう。
③肯定的・具体的な表現をルール化する
個別支援計画書に関する記述方法は、ストレングス視点で行うことをお勧めします。 すなわち、「〜ができていない」ではなく「〜ができるようになるために〇〇を支援する」といった肯定的表現をルール化します。
よく誤解されることに、肯定的表現は人権上の配慮だというものがあります。
救護施設における支援のあらゆる場面で人権上の配慮は最優先事項であることは論を待ちません。しかし、ここで肯定的表現をルール化しようという主旨は、人権上の配慮がおもな理由ではありません。それは、「〇〇ができる」と肯定的に書くことで、どこから支援が必要か(すなわち、「〇〇」以降に支援が必要ということです)という「介入ポイントが明確にできる」からです。
また個別支援計画における表現は、「頑張る」といった抽象的な書き方ではなく、「〇〇の活動に週に3回参加する」など具体的で測定可能な書き方にしましょう。利用者、支援者ともに、行われる(行う)支援が理解しやすくなります。
④施設内用語集の作成と共有
施設内で頻繁に使う支援内容や行動表現について、統一した定義や使用例をまとめた用語集を作成し、職員全員で共有することをお勧めします。
この作成に充てられる職員がいない場合は、外部の専門家に依頼するのもひとつの方法です。専門家の例として、施設の状況をよく知る社会福祉士などが挙げられます。社会福祉士は法律で守秘義務が課せられていますが、こうした業務を委託する場合は必ず秘密保持契約を締結するなどして、業務上の秘密が守られることを実質的に担保する他、外形的にも明らかする必要があります。
こうして作成された用語集は、新人職員などの研修資料としても役立ちます。
(3)必須項目と任意項目の区別
個別支援計画書の様式には多くの記入欄があります。特にアセスメントシートにはたくさんの項目があり、項目を埋めるだけで大変だという声も聞かれます。
しかし、個別支援計画書の作成は記入欄を埋めることが重要なのではありません。たとえば、全救協版救護施設個別支援計画書には、個別支援計画を適切なものにするために必ず記入しなければならない項目(必須項目)と、必要に応じて記入する項目(任意項目)があります。施設でルールを作る場合は、まず、その施設の状況に応じて支援に不可欠な「必須項目」を明確にしましょう。そして、それ以外の項目は「任意項目」として、必要に応じて記載することにします。このようにメリハリをつけると個別支援計画を作成する際の効率が高められます。
この「必須項目」と「任意項目」の選別は、1)入所者の状況と個別支援計画書の様式の両方に詳しい職員が下案を作る。2)それを、個別支援計画書を作成するすべての職員で検討する。といった2段階の手続きを経ることで、手早く実用的なものを作ることができるでしょう。
(4)適切なICTの活用
個別支援計画の作成をコンピュータ化することによるメリットは計り知れません。きちんと設計されたコンピュータシステムを導入することで、個別支援計画の作成と検討を大幅に合理化できます。さらに、それによって得られたマンパワーを直接支援に投入することができるようになります。
しかし、どれだけコンピュータ化を進めても、直接支援の「最後の1マイル」は職員自身の手によって行われることに変わりはありません。コンピュータ化は、それ以前と同じ職員数で直接支援に投下できるマンパワーが増強できるのですから、コンピュータ化を進めることに議論の余地はありません。
一例として個別支援計画の作成におけるコンピュータ化の具体的な利点を挙げると、入力内容を固定できることが挙げられます。施設で設定した用語リストが個別支援計画の作成時や支援記録の入力時にサジェストすることで、記入される言葉や表現を一定程度統一することができ、作成される個別支援計画や支援記録の精度を高められます。また、言葉や表現が統一されていると、後になって実施した支援を検索したり、実施した支援を統計的に整理する必要が生じた際の処理が極めて迅速に行えるのもコンピュータ化の利点です。
画面上では、紙媒体と比較して未記入の欄がはっきりとわかります。この特徴により記入漏れを防ぐ効果が期待できます。コンピュータを使うと記入内容の更新も簡単ですし、それを、誰がいつ更新したかの履歴も通常は自動的に記録されます。
適切なコンピュータシステムは、「施設と利用者の状況」「個別支援計画」「コンピュータシステム」の3つの視点で検討します。単に「コンピュータを購入した」「システムを導入した」だけでは、現場で使いやすいシステムにはなりません。現用のシステムが「なんとなく使いづらい」と感じている施設のほとんどで、この3つの視点のいずれかが不足しています。
(5)地区での事例共有と研修会の実施
①地区救護施設協議会などでの情報交換
地区救護施設協議会や県ごとに行われる個別支援計画に関する集まりは、よりよい支援の実現に向けて成功事例や課題を共有し、解決の糸口を見出すことを目的として行われます。
一方で、これらの機会に、実際に使用している個別支援計画の様式や記入ルールを持ち寄り意見交換を行うことで、記入項目の検討や用語・ルールの統一のための知見を得ることができます。参加を通じて、自施設に合ったルールを見つけるヒントが得られるでしょう。
②研修会、カンファレンス、スーパービジョンの実施
新任職員、ベテラン職員を問わず、定期的に個別支援計画の作成に関する研修を実施する中で、記入方法や文言統一のルールもあわせて説明し、その趣旨と具体的内容を徹底します。先進的な取り組みを行っている施設の担当者を講師として招くのも効果が期待できます。
職員が作成した個別支援計画は、必ず施設内の支援者チームでカンファレンスを行い、その内容を検討してから利用者に提示します。その際、記入方法や文言にルールどおりでないところがあれば指摘して修正するようにします。
施設でのスーパービジョンにおいて、スーパーバイジーが自分の実践について説明する場合にも、スーパーバイザーは記入方法や文言がルールどおりになっているかを確認します。しかし、スーパーバイザーは、スーパーバイジーの記入方法や文言の扱いがルールどおりでなかったとしても、通り一遍に修正を求めるのではなく、なぜそのように記入したのかをスーパーバイジーに確認します。スーパーバイジーは自らの記入方法や文言の扱いを言語化することを通じて、これを統一することの主旨を理解します。このことがよりよい個別支援計画を作成できる力量の向上につながります。