生活保護基準引下げ処分取訴訟 「この後、どうなるんだろう」

生活保護基準引下げ処分取消等請求訴訟の最高裁判決が、本年6月27日言い渡された。

この訴訟のおおまかな経緯は次のようなものである。
(1)厚生労働大臣が、2013年から2015年の生活扶助基準を改定した。
(2)これを受けて、今回被告となった市の福祉事務所長らは、原告らに生活扶助の支給額を変更する旨の保護変更決定を行った。
(3)原告らは、この改定が違法であるとして次の2つを求める訴訟を起こした。
・被告である市は、上記支給額を変更する旨の保護変更決定を取り消せ。
・国は損害を賠償しろ。

その判決内容が、こちら。
・自治体による保護変更決定処分を取り消す。
・原告らの国に対する損害賠償請求を棄却する。

厚生労働省は、この判決について判決の日に大臣名で次のコメントを出した。
「厚生労働省としては、司法の最終的な判断が示されたことから、今回の判決内容を十分精査し、適切に対応してまいります」

以下、感想である。
私がいま抱いていることを率直にいうと「この後どうなるんだろう」である。

生活保護の基準は生活保護以外のさまざな制度と密接に関係している。
生活保護基準が変わると、これらも影響を受ける。
たとえば、「中国残留邦人等に対する支援給付」や、文部科学省所管の「特別支援教育就学奨励費」の額は生活保護基準を参照している。
これついて、少し前に厚生労働省がまとめた「生活扶助基準の見直しに伴い他制度に生じる影響について」によると、影響は公のものだけで50近くに及ぶという。

つまり、判決への対応だけを考えるならば、扶助費を減額していた分を追加して支給すればいい(これは言い過ぎである。もちろんそんな単純なものではない。しかし、これだけでも、対象者をどう決めるのか、事務をどこがするのかなど課題は山積みである)。

しかし実際は、これに加えて複数の省庁が所管するさまざまな法律や制度が影響を受けるのである。この調整も必要になる。
こうした調整には時間と手間がかかる。
一方で、その中でも状況は時々刻々と動いていく。

今回の判決によって、減額分が支払われることになったとして、その対象になるのは裁判の原告だけなのか、それとも当時の生活保護受給者全てなのか。
受け取る資格があるのは、現在存命中の人だけなのか。だとすれば基準日はいつなのか。

下世話な話だが、これらについてどこかで線引きをすれば、その前後で「得をする」「損をする」人が必ず現れる。
この線引きは、最後は政治の判断にゆだねられるのだろうが、その政治判断は世論に押されて必ずしも安定していない。仮に、判断を示す時点で「生活保護バッシング」の世論が強まっていたら、対象者に厳しい判断が行われかもしれない。もちろん、反対のケースもありうる。

こうした複雑多岐にわたる制度の調整と決定を、容赦ない時間の経過に置いていかれないよう迅速に行うことが、今回の判決後に求められるのだ。

私が「この後、どうなるんだろう」と思うのは、そういうことである。