『個別支援計画に関するQ&Aについて』

このエントリで引用しているのは、令和6年10月1日に発出された『救護施設及び更生施設における個別支援計画の作成について』(社援発1001第4号)のQ&Aです。これまでの救護施設の取り組みを踏まえた解釈が示されています。
通知とあわせて読むと、今回の義務化の考え方がわかるように思いました。

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令和6年10月1日事務連絡

各 都道府県 指定都市 中核市 保護施設担当課 御中

厚生労働省社会・援護局保護課

個別支援計画に関するQ&Aについて
保護施設の運営につきましては、平素よりご尽力をいただき、厚く御礼申し上げます。
さて、今般、救護施設及び更生施設において個別支援計画の作成が義務化されたところ(令和6年10月1日施行)でありますが、この取扱いについて、「個別支援計画に関するQ&A」を送付いたしますので、内容を御了知いただくとともに、管内自治体等に周知いただくよう、お願いいたします。

厚生労働省 社会・援護局 保護課
保護事業室 自立支援係
連絡先:※省略

個別支援計画に関するQ&A
Q1 個別支援計画の作成時期について、「入所後速やかに」とあるが、入所者の状況によっては、アセスメントを数回行う必要があるなど、個別支援計画の完成までは時間がかかる者がいる場合はどうすればよいか。
A1 ご指摘のとおり、入所者の状況によっては入所時から個別支援計画の作成に至るまで長期間を要することもあり得るものと認識している。
このため、局長通知第2の「3 個別支援計画の作成時期」では、個別支援計画の作成を終える時期ではなく、作成に着手する時期として、「入所後速やかに」と記載しているところである。
具体的には、局長通知第3の「1 アセスメント(入所者の意向・ニーズの把握等)」に係る取組について、入所後速やかに実施いただきたい。

Q2 援助方針との関係において、福祉事務所が策定した援助方針の趣旨を踏まえたものとあるが、援助方針は救護施設等にあらかじめ示されるのか。また、援助方針の様式はすべての福祉事務所で統一されているのか。
A2 局長通知第2の「4 援助方針との関係」に記載のとおり、個別支援計画は、保護の実施機関が策定した援助方針の趣旨を踏まえたものとする必要があると考えている。
このため、一般的には、救護施設等が個別支援計画の作成に当たり、事前に援助方針の趣旨を把握しておくことが必要であるが、援助方針の提供範囲、提供方法、提供時期等は、福祉事務所と救護施設等との間で相談・協議の上、決定していただきたい。
なお、援助方針の様式については各福祉事務所において定めている。

Q3 あらかじめ協議を行うとあるが、協議の方法(オンラインや対面による会議開催、電話、文書送付によるものなど)や時期は決まっているのか。
A3 局長通知第4においては、個別支援計画の作成及び見直しに当たり、福祉事務所と十分な協議を求めているところ、具体的な協議の方法や時期等については、各福祉事務所と各救護施設等との間で相談・協議いただき、円滑な実施に努めていただきたい。
なお、救護施設等においては、複数の福祉事務所との調整が同時期に集中することも想定されることから、福祉事務所は、救護施設等の状況・負担等も考慮した運用となるよう配慮いただきたい。

Q4 個別支援計画書に記載すべき事項は定められているが、様式が定められていない。全国統一の様式を示すべきではないか。
A4 今般、救護施設等における個別支援計画の作成を義務化したところであるが、多くの教護施設等では、自主的な取組として、既に同様の計画作成が行われていると伺っている。こうした実態を踏まえ、厚生労働省としては、救護施設等において過大な負担がかかることなく、円滑に取組を実施・継続されるよう、統一的な様式等は示さないこととしている。

『救護施設及び更生施設における個別支援計画の作成について』

『救護施設及び更生施設における個別支援計画の作成について(社援発1001第4号 令和6年10月1日)』が発出されました。
通知には、救護施設及び更生施設における個別支援計画の作成に関する概要、基本的考え方が示されています。
本文にもあるように、この通知は国や都道府県が普通地方公共団体に向けて「技術的助言」として発出されたものです。これにより、今後、福祉事務所は救護施設から提出された個別支援計画書を見る時、その個別支援計画がこの通知にある「基本的考え方」「時期」を踏まえ、「福祉事務所が策定する援助方針」に沿ったものであるか、また「必ず記載されること」とされている項目が含まれているかを確認することになると思います。

なお、この通知には『個別支援計画に関するQ&A』が出されています。あわせてご覧ください。

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社援発1001第4号
令和6年10月1日

各 都道府県知事 指定都市市長 中核市市長 殿

厚生労働省社会・援護局長

救護施設及び更生施設における個別支援計画の作成について

「救護施設、更生施設、授産施設及び宿所提供施設の設備及び運営に関する基準及び厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令の一部を改正する省令」(令和6年厚生労働省令第118号。以下「改正省令」という。)が、令和6年8月30日に公布され、同年10月1日より施行されることに伴い、救護施設及び更生施設(以下「救護施設等」という。)は、入所者ごとの個別支援計画を作成しなければならない旨、同年8月 30 日付で通知したところである(別添参照)。
救護施設等における個別支援計画の作成に関する概要、基本的考え方等は下記のとおりであるので、十分に御了知の上、適切にご対応願いたい。
また、各都道府県におかれては管内の福祉事務所設置自治体(指定都市及び中核市を除く。)及び管内の保護施設に対して、各指定都市及び各中核市におかれては管内の保護施設に対して、このことを十分周知いただきたい。
なお、本通知は地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定による技術的助言として行うものであることを申し添える。

第1 概要
救護施設等は、最後のセーフティネットとして、精神疾患や身体・知的障害のある者、アルコール等の依存症のある者、DVや虐待の被害者、ホームレス等、様々な生活課題を抱える入所者に対する多様な支援の実践を担っている。
今般、社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会「生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度の見直しに関する最終報告書」(令和5年12月27日)において、「救護施設等については、入所者が抱える様々な生活課題に柔軟に対応し、可能な方については地域移行を更に推進することが重要であり、施設の機能や目的に応じて、福祉事務所のケースワーカーを始めとする関係機関とも連携しつつ、計画的な支援に取り組む環境を整える必要がある。このため、福祉事務所と情報共有を図りつつ、救護施設等の入所者ごとの支援計画の作成を制度化する方向で対応する必要がある」とされた。
これを踏まえ、「救護施設、更生施設、授産施設及び宿所提供施設の設備及び運営に関する基準」(昭和41年厚生省令第18号)を改正し、救護施設等における入所者ごとの個別支援計画の作成を義務化したものである。

第2 個別支援計画の基本的考え方
1  個別支援計画について
個別支援計画は、救護施設等において、各入所者の意向・ニーズを的確に把握し、これを尊重した質の高い適切な支援を実現するため、入所者ごとに、総合的な支援目標、個別課題に対する支援の目標、支援内容や具体的方法等を定めるものである。
救護施設等においては、各入所者の心身の状況、その置かれている状況、日常生活全般の状況等の評価及び入所者の希望する生活や課題等の把握(アセスメント)を行い、入所者が自立した日常生活及び社会生活を営むための適切な支援内容を検討した上で、これに基づき個別支援計画を作成することが必要である。

2 個別支援計画の作成対象者
個別支援計画の作成対象者は、原則として、救護施設等のすべての入所者とする。ただし、一時入所対象者(「生活保護法による保護施設事務費及び委託事務費の取扱いについて」(昭和63年5月27日社施第85号厚生省社会局長通知)中「一時入所の取扱いについて」に該当する者)及び一時的・臨時的な入所者であって保護の実施機関が個別支援計画の作成を要しないものと認めた者については、この限りではない。

3 個別支援計画の作成時期
個別支援計画の作成は、作成対象者の入所後速やかに着手することとする。

4 援助方針との関係
「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知)において、保護の実施機関は、訪問調査や関係機関調査によって把握した要保護者の生活状況を踏まえ、個々の要保護者の自立に向けた課題に応じた具体的な援助の方針として、援助方針を策定することとしている。
救護施設等への入所は、保護の実施機関による措置により行われるものであることから、個別支援計画は、保護の実施機関が策定した援助方針の趣旨を踏まえたものとする必要がある。

第3 救護施設等における個別支援計画による支援プロセス
1 アセスメント(入所者の意向・ニーズの把握等)
個別支援計画の作成に当たっては、入所者の心身の状況や、これまでの生活環境や家族環境、人間関係等、入所者が置かれている状況、日常生活全般の状況等の評価及び入所者への面談等により、入所者に応じた支援の方向を見定めるため、入所者の希望する生活や課題等を把握(アセスメント)することとする。
この場合において、救護施設等は、入所者に対し、面談等の場において、個別支援計画の趣旨について十分に説明し、理解を求めるよう努めることとする。

2 個別支援計画の作成
アセスメントした結果を踏まえ、個別支援計画を文書により作成することとする。また、個別支援計画の内容について、入所者に十分に説明し、同意を得られるよう努めた上で、その写しを手交することとする。なお、個別支援計画について、一律の様式は定めないが、次に掲げる項目は必ず記載することとする。
(1)入所者の意向
個別支援計画は、入所者が自立した日常生活及び社会生活を営むための質の高い適切な支援を実現するため、入所者ごとに、総合的な支援目標、個別課題に対する支援の目標等を定めるものであり、その起点となる入所者の意向・ニーズを的確に把握し記載する。
(2)総合的な支援目標
「(1)入所者の意向」に対して、どのような支援を行うかを入所者に確認、検討の上、総合的な支援の目標を記載する。
(3)ニーズに向けた個別課題と設定理由
入所者の個々のニーズや課題について記載する。その際、アセスメントの結果から、入所者が日常生活上困っていることの解決や希望することの実現のために、入所者に関する助長・促進すべき強みや自身が取り組むべき課題を整理する。
記載に当たっては、「(2)総合的な支援目標」に照らし、原則として優先度合いの高いものから順に記載する。
(4)支援の目標(課題に対する目標)
「(3)ニーズに向けた個別課題と設定理由」で設定した個別課題に対応した支援の目標を記載する。
(5)支援内容
「(4)支援の目標(課題に対する目標)」で掲げた目標の達成に必要な支援の内容(基本的な方向性等)を記載する。
(6)具体的な方法
「(5)支援内容」で掲げた内容を具体的にどのような方法(例えば、詳細な取組内容、支援の頻度、実施曜日、支援期間等)で実施するかを記載する。
(7)モニタリングの時期
個別課題ごとにモニタリングを行う時期を記載する。

3 支援の実施
個別支援計画に基づき、施設内での取組や社会資源の活用、関係機関との連携により支援を実施することとする。
入所者の意向・ニーズは変わり得るため、個別支援計画の内容と乖離・齟齬が生じていないか等、随時留意しながら支援を実施することが重要である。

4 モニタリング
モニタリングは、個別支援計画に定める個別課題ごとの「モニタリングの時期」に実施することとする。具体的には、
・個別支援計画に基づいて実施された支援の結果、入所者のニーズがどの程度充足されたのか
・支援を通じて、入所者に新たなニーズが生じていないか
・今後の対応をどのように進めるか
等の観点から経過の振り返りを行い、個別支援計画の見直しの必要性やその内容について検討を行うこととする。救護施設等は、モニタリングに当たって定期的に入所者に面談するとともに、モニタリングの結果を記録することとする。
なお、モニタリングについては、入所者の状況変化等があった場合には、必要に応じ、「モニタリングの時期」として設定された時期にかかわらず適宜実施することとする。

5 個別支援計画の見直し
モニタリングの結果を踏まえ、必要に応じ、個別支援計画の見直しを行うこととする。見直しを行った場合は、見直し後の個別支援計画に基づき、その後の支援やモニタリングを実施することとする。

第4 保護の実施機関との連携
1  第2の4に記載のとおり、個別支援計画は、保護の実施機関が策定する援助方針の趣旨を踏まえたものとする必要がある。
このため、救護施設等においては、個別支援計画の作成及び見直しに当たっては、
・個別支援計画に基づいて提供する支援の内容は適切か・活用する社会資源が適切であるか等について、あらかじめ保護の実施機関と協議を行うこととする。

2 救護施設等においては、第3の2に記載のとおり、個別支援計画の写しを入所者に手交した場合は、当該個別支援計画の写しを保護の実施機関に対し遅滞なく提出することとする。

3 保護の実施機関が救護施設等への訪問調査を行う際には、救護施設等と保護の実施機関との間で、個別支援計画に基づく支援の実施状況等について共有することとする。

第5 その他
改正省令の施行日(令和6年 10 月1日)より前に更生施設において作成された更生計画については、当該計画の終了までの間、個別支援計画とみなすこととする。

支援担当者が作成するのをお勧めする理由

最近行った研修会の終了後に、受講者からご質問をいただきました。このご質問が講義内容を補足できるものだったので記憶を頼りに書き起こしたのがこのエントリです。
なるべく正確に書き起こすように心がけましたが、もとが会場内での立ち話なので、質問と回答の対応がしっかりしてなかったり、話があっちこっちに飛んだりしています。お許しください。結論だけ知りたい人は文末に飛んでください。
なにかのご参考になれば幸いです。

先ほどの講義で「救護施設では、個別支援計画は直接支援を行っている担当者が作成していることが多い」とおっしゃいました。うちの施設はそれとは違う方法で個別支援計画を作っています。支援担当者とは別に個別支援計画を作る職員がいて、その職員が25人から30人ぐらいの個別支援計画を作ります。現場の支援員はそれを見て支援を行い、ケース記録を書く、そしてカンファレンスに参加するという形です。このやり方でもいいですか。
誰が個別支援経計画を作り、誰が実行するのかという仕組みのお話ですね。これを考える時、大事なことが2つあります。まず、それぞれの施設にあった方法を考えてそれを実行すること、次に、必要な時にそれを見直す仕組みをあらかじめ考えおくことです。
施設によって、利用者の状況は違います。また職員のスキルなどの環境も大きく異なります。したがって、それぞれの施設でどの方法がいいのかは施設ごとに違って当然です。さまざまなことを考えて、施設にとってベターな仕組みを決めて実行すればいいと思います。ただし、それらの状況や環境は時間が経つと変わります。利用者は入れ替わるし職員のスキルも変化します。だから、その時点で仕組みが機能しているか、より適切な仕組みは無いのかといったことを考える仕組みをあらかじめ組み込んでおくことが必ず必要です。

施設ごとに仕組みを決めること、それを見直す仕組みをあらかじめ組み込んでおくことですね。それがあれば、うちの施設のように専任で個別支援計画を作る職員をいうのを置いても大丈夫ということでしょうか。
それでいいと思います。その上で、なぜ、私が救護施設では個別支援計画は直接支援を行っている担当者が作成していることが多いとお話し、それをお勧めしたかについて、講義では時間の関係で触れられなかったことを、少し詳しくお話します。

まず、一般的に救護施設では、利用者のニーズが初回の個別支援計画作成のプロセスで一発で定まることはまずありません。通常、利用者と職員の関係が深まると、利用者はより多くのことをお話してくれるようになります。それで、職員はより詳しく利用者の希望・要望を知ることができるようになるし、そのやり取りで希望・要望が言語化されることで、利用者自身も自らの希望・要望をより明確に認識されます。だから、時間をかけるほどに新しい話がでてきて、それに応じてニーズも変わっていきます。
とはいえ、多くの施設では入所から初回の個別支援計画を作成するまでの期間を決めています。だから、無限に時間をかけて、このやり取りができるわけではありません。そこで、支援者は締め切りまでの期間内で知ることができた希望・要望からニーズを考えて提示し、利用者の合意を得てそれを実現する個別支援計画案を作ります。これが通常の流れです。
だから、初回の個別支援計画で支援目標にしたことが、次の回では変わっているのがむしろ普通です。反対にこれが最後までも変わらないといったことはまずありません。なにがいいたいのかというと、利用者の状況だけでなく、希望・要望も、それに向けたニーズも、支援が進むにつれてどんどん変わるのが普通だということです。
その変化に一番近いのが直接支援を行う担当者です。だから、直接支援を行う担当者が個別支援計画を作って現場で共有し、支援に反映させるのが一番早くて効率がいい。それが、私が直接支援を行う担当者が個別支援計画を作成することをお勧めする理由です。それは、担当者が把握したことを専任で個別支援計画を作成する職員に伝え、その専任の職員が利用者からまた話を聞いて支援計画を変更して、それを担当者に伝えて支援に反映させるといった流れと比べてスピーディーで合理的だと思います。

では、なぜ介護保険や障がい者支援の分野では専門の職員がケアプランや支援計画を立てる仕組みになっているのですか。
わかりません。ただ、介護保険と障がい者支援の分野に共通しているのは、利用者ごとに行う給付管理と事業者の請求事務です。これがひとつの理由ではないかと思います。
これらの分野では、公的健康保険制度に似た事務的な管理が必要です。通常、この管理は事務職員が行っています。つまり、これらの分野では直接サービス提供に関わらない事務職員が、個別利用者に対するサービスの提供状況を知り管理する必要があるということです。これに対して、救護施設では、事務職員が個別の利用者にどのような支援が1日何回、1カ月に何度提供されているかを管理する必要がありません。この違いが、サービスの提供状況を集中的に管理する仕組みの必要、つまり介護保険や障がい者支援の分野では専門の職員がケアプランや支援計画を立てる仕組みになっている理由のひとつではないかと想像します。

もう少し言葉をつなぐと、この管理する(される)のと、スピーディに支援を提供するというのは相対する関係になりやすいです。たとえが飛躍しますが、ある製品を作っている工場があったとして、工場で作られた製品が問屋さんを経由してユーザに届くのと、工場から直接ユーザに直販で届くのとの違いに似ているでしょうか。これはどちらがよいという話ではありません。プロの問屋さんを経由することでアフターサービスを含めた一定の品質が担保される可能性が高まります。一方でその分費用や時間といったコストは上がります。直販では、コストは削減されユーザからの反応もダイレクトに工場へ届きます。しかし、問屋さんが行う中間のチェックやフォローが無くなるため、工場とユーザの間で充分なコミュニケーションが行われていなければ見落としやエラーはその分起こりやすくなるでしょう。要は、介護保険と障がい者支援の分野で専門の職員がケアプランや支援計画を立てる仕組みになっているのは、目的に向けて支援の質や量をマネジメントする必要を踏まえた仕組みになっているのだろうということです。

それでは、どうして救護施設の個別支援計画は直接支援を行っている担当者が作成することを勧めるのですか。
これについて、これまで私が公(おおやけ)にお話ししてきた説明は次のようなものです。
~少数の職員が、さまざまなニーズを持つ施設利用者全員の個別支援計画を作成するより、複数の職員がそれぞれの知見を活用して少人数の個別支援計画を作成する方が、支援内容が多様になるからです。職員にはそれぞれ得意とする分野や経験の偏りがあります。専門施設ではそれが強みになりますが、さまざまな特性とニーズを持った方を受け入れて支援する救護施設の場合は、その偏りが、利用者一人ひとりに合わせた個別支援計画を作成しようとする時、制約になる可能性があります。そこで救護施設では、さまざまな知見や経験を持った職員がそれぞれの得意を活かして、それに合う利用者の個別支援計画を作成することを考えました。救護施設は、他の分野では支援しきれなかった新しいニーズを持つ方も多く利用されています。こうした新しいニーズを持つ方に多様な知見を持つ職員がさまざまな取り組みを行い、その中でより効果的な支援方法が見つかったら、それを多数の施設で共有して支援を行います。そうすることで、救護施設全体でよりよい支援を行える体制が築けます。全救協がすべての救護施設で使えることを念頭に全救協版個別支援計画書を作ったのは、こんなことを考えていたからです~

これは、先ほどお話しした救護施設と介護保険や障がい者支援の専門施設の違いを前提にしています。すなわち、直接支援を行っている担当者がそれぞれ個別支援計画を作成するというのは、救護施設だからできることだと思います。それは、事務職員が個別の支援内容を管理する必要がないからです。
しかし、これは全体論でのメリットです。現場の支援者一人ひとりの目線では、目の前の利用者の支援にどのようなメリットがあるのかが気になると思います。

このことを説明するには、私の社会福祉以外での経験を聞いていただくといいかもしれません。
実は、私はソフトウェアエンジニアの経験があります。いわゆるプログラマです。その仕事でプログラムを作ることを「開発」と呼びます。私が経験した開発の方法は大きく2つで、ひとつは「ウォーターフォール」、もうひとつは「アジャイル」です。
ウォーターフォールは伝統的な方法です。「要求定義」「要件定義」「仕様決定」という風に開発が上流から下流に向けて行われます。これを水が上から下へ流れる様子に見立てて”waterfall(WF)”と呼びます。通常、大規模なシステムはWFで開発され、そのゴールである納期も長いものでは数年先になります。
これに対して、アジャイルはWFに比べると小規模な開発が中心です。ゴールまでの期間も数週間程度で、年単位というのは私は聞いたことがありません。今日発注して2週間後に確認、4週間後にリリースという感じです。要求も4週間後にリリースすることがわかっているなら、その4週間前に伝えれば大丈夫です。なんなら、先月お願いしたこの機能は今はいらないから外してとか、この機能はとりあえず後で実装してくれればいいから先にこちらを入れてとかもわりあい柔軟にできます。開発会社側でも、これとこれは優先的に作ろうなんてことができたりします(もちろん客先と相談です。限界はあります)。WFでは、だいたいカットオーバー(この先はなにも変えられないというリミット)の1年ぐらい前に要求を締め切る感じになりますから、アジャイルとはだいぶ勝手が違います。
こうして並べて説明すると、アジャイル開発の方がいいように思うかもしれません。ではどうしてWFが今も生き残っているのかというと、発注されたプログラムにどんなことをさせるかという機能を挙げる会社と、実際にプログラムを作る会社が異なる場合があるからです。こういう元受け下請けの関係では仕事の進行に管理が必要です。そのためにはWFの方が都合がいいというのが理由のひとつです。
機能を挙げる会社(開発会社)は「この1,000の機能を1年後の月末までに作る」なんていう見積もりと契約書を作ります。実際にプログラムを作る会社(請負会社)は、それを作るだけです。請負会社は、発注した顧客との話し合いに同席することはあってもなにかを決める権限があるわけではないので、1,000の機能を納期までに作るだけです。顧客とのやり取りで、これを優先してとか、請負会社からの提案でこれを先にしたいとか、そんなことはありません。念のため正確を期すと、WFでもどの機能を優先して実装するかという優先順位みたいなものがついている場合がありました。ところがその優先順位というのがひどいもので、私は挙げられた機能のおよそ95%が優先度Aっていうリストを見せられたことがあります。こんなの順位をつけるだけ無駄だろうと思いました。そのリストを確認させられた時は、会議を中座して大阪に帰ろうか(会議は東京でした)と思いましたよ、ほんとの話。
でも、WFは上流工程の開発会社が管理するには都合がいいんです。なにしろ、開発ですべきことがすべててリストに挙がっているので、契約上は開発が拡大しない(あくまで契約上です。実際は変更続きで果てしなく拡大することがあります、っていうかそれが常態です)し、開発がどこまで進んでいるかの進捗管理も比較的簡単です。アジャイルなんて、客先との会話ひとつで変わりますからね。なので、WFは大きなシステムを開発する時には主流の方法です。

ソフトウェア開発の話はここまでにしましょう。
このたとえ話を聞いていただいたら、私がなにを言おうとしているのかもうお気づきだと思います。そう、救護施設で個別支援計画を作成する時はどちらの方法を参考にすべきかということです。
先ほども言いましたが、通常、個別支援計画を作る時に、最初に利用者から聞いた希望・要望が最後までそのままというのはほとんどありません。アセスメントをする担当者との関係性や、アセスメントで利用者の話したことを担当者がまとめて言語化して返し、それを利用者が聞くというやり取りの中で、希望・要望は変化し続けるからです。
でも、それだといつまで経ってもアセスメントに留まって支援計画の作成に移れないので、ある時点で希望・要望の聞き取りを一時停止してニーズを整理します。
これは冷たい態度と感じるかもしれません。しかし、経験上、希望・要望の聴取には閾値のようなものがあって、これ以上聞いても本当にニーズに反映してよいかどうかわからなくなる一線があります。第一、いつまで経ってもアセスメントに留まって支援計画の作成に移れません。
それだったら、最初から短期間にそこそこの深さで聞いた希望・要望とアセスメントをもとに、とりあえずのニーズをはじき出し、迅速に個別支援計画を作って説明する。それで同意が得られたら支援を始める。支援が始まってからも希望・要望を聞き続けてそれを迅速に支援に反映させる。これでいいんじゃないかと思うわけです。あ、言い忘れましたが”アジャイル(agile)”って、「すばやい」という意味です。
特に、救護施設では支援内容が変わっても請求事務に影響があるわけではありません。複雑だったり工程数が多い支援プログラムを実行する場合に、現場の人繰りに調整が必要になるだけです。だったら、支援する人が個別支援計画を作成して、必要に応じて柔軟に書き換える方法でいいじゃないかと思います。
もちろん、当然のことですが個別支援計画を変更したら利用者本人と支援を行うチームの職員でそれを共有する必要はあります。
ということなので、救護施設の個別支援計画は直接支援を行っている担当者が作って支援する方がいいと思うのは、その時点でのニーズが迅速に反映できて、それによるデメリットが少ないからです。

※ご質問をいただいたAさん、ありがとうございます。

救護施設の個別支援計画。保護施設版の様式には置き換えないことになりました。

令和6年度救護施設経営者・施設長会議が、5月23日~24日東京都千代田区の灘尾ホールで開催された。
今回の会議では、この春の法律・制度改正を受けて救護施設の事業運営がどう変わるかが話題の中心だった。その中でも、個別支援計画の制度化がどのような影響を与えるかに焦点があたった。

会議での説明は次のようなことだった。
・個別支援計画の制度化についてはこの会議の時点で省令が発出されておらず不明である。
・だが、個別支援計画を作成して支援を行う取り組みは、すでにほぼすべての救護施設で行われおり、制度化によってまったく新しいことに取り組むのではない。
・個別支援計画の作成手順は、現在およそ3/4の救護施設が使っている『全救協版救護施設個別支援計画書』(2019年版)のとおりであり、これは制度化以降も変わらない。
・今回、厚生労働省からの受託事業として全国社会福祉協議会が新しく案出した保護施設(救護施設、更生施設)版「個別支援計画書(様式例)」は、個別支援計画制度化の目的である福祉事務所との情報共有・連携のためのものである。
・すなわち、「個別支援計画書(様式例)」の使い方としては、従前のとおり『全救協版救護施設個別支援計画書』(2019年版)で個別支援計画を作成し、そのエッセンスを転記するような感じになると想定している。
・制度化によるもっとも大きな変化は、福祉事務所に施設で作成した個別支援計画が渡るということである。これによって、これまで施設内(利用者・職員間)で完結していた個別支援計画が外部の目に触れることになる。これによって、当然その適否と実行の有無が福祉事務所から問われることになるだろう。
・時間が経ち、福祉事務所に救護施設から提出された個別支援計画が積み上がってくると、福祉事務所は、それぞれの救護施設が行っている支援の違いが判るようになる。
・それが、それぞれの救護施設の強みを知り、来談者をより適した救護施設に措置するというようによい方向に活用されるのか、単純に「いい施設、悪い施設」のような形で選別に使われるのかは、今のところなんとも言い難い。
・個別支援計画の制度化を契機として、それぞれの救護施設が持つ強み弱みを地域あるいは全国の救護施設で補いあうことで、そのレジリエンスを高められればと思っている。

以上は前嶋の理解による聞き書きである。言葉も前嶋の理解によって適宜置き換えている。

この説明中、前嶋個人としては次のところが大変重要だった。
「保護施設版「個別支援計画書(様式例)」の使い方としては、従前のとおり『全救協版救護施設個別支援計画書』(2019年版)で個別支援計画を作成し、そのエッセンスを転記するような感じになると想定」

救護施設の個別支援計画に当初から関わっている私にとって、これは大変な重要な整理だと感じた。
「個別支援計画書(様式例)」については、その項目を委員会で検討してる時から2019年版との取り合いをどうするかが議論になっていた。しかし、この会議までは結論めいたものがどこにも無かった。
このため、現場では作成手順をできるだけ簡略化したいという思いから、保護施設版の「個別支援計画書(様式例)」と2019年版で項目が重複している「ニーズ整理表」「支援計画」「同意書」を置き換えられるのではないかとの意見が支配的だった。私も研修等で尋ねられると、そういうアレンジが可能かもしれないと答えてきた。
ところが、今回の説明で、これは明確に否定された。この度の制度化によって、救護施設の個別支援計画は変わらない。福祉事務所との情報共有・連携用として、新たに保護施設版「個別支援計画書(様式例)」が加わるのであると整理されたのである。
個人的には、この整理に大変満足している。同時に、これまで現場の空気を「忖度」してお話してきたことを改めなければならない。ミスリードをお詫びしたい。

さて、みなさん。上のとおり、保護施設版「個別支援計画書(様式例)」は福祉事務所との情報共有用です。救護施設の個別支援計画は、これまでと同様に『全救協版救護施設個別支援計画書』(2019年版)を使って作成しましょう。その上で、どちらも施設ごとにアレンジはできますので、手数を減らしたい施設はできるだけ省力化を考えましょう。

そういえば、私、先月もどこかの研修で「置き換えできるかも」って言ってしまいました。
これは、訂正行脚に出ないといけないかも。