「個別支援計画書を活用した取り組み」 ご質問とコメント(6/6)

九州で救護施設の施設長をされている方から、個別支援計画についてご質問をいただきました。
質問は、研究協議会の開催に当たり分科会での議論に向けて出たものだそうです。
このご質問と、私がお返ししたコメントをご紹介します。

【質問6】入所者の非現実的なニーズに対して、長期の支援を要する可能性がある際に、ニーズと支援内容の整合性が図れないことがある。そのような場合、他施設においてどのように対応しているかお伺いしたい。

ご質問の「入所者の非現実的なニーズ」という表現に、現場のリアルなとまどいを感じます。その意味はさまざまに解釈できますが、ここでは「そのニーズを満たすことが、むしろ利用者自身の生命、健康、財産や社会的関係性を大きく損なう可能性があるもの」として回答します。

この課題は、私たちの支援が「利用者の自己決定の尊重」を前提にしていることで生じます。

もちろん、「自己決定の尊重」は救護施設の支援における最優先事項であることは疑いがありません。しかし、一方で救護施設を含む社会福祉実践の現場では、利用者の自己決定に沿った支援を行うことが、利用者自身の生命、健康、財産、そして社会的関係性を大きく損なう場合があることを、現場職員の多くが経験しています。

このことについて、ソーシャルワーカーの専門職能団体の連合体である日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)は、2020年に改訂した「ソーシャルワーカーの倫理綱領」で次のように定めています。

(クライエントの自己決定の尊重)
ソーシャルワーカーは、クライエントの自己決定を尊重し、クライエントがその権利を十分に理解し、活用できるようにする。また、ソーシャルワーカーは、クライエントの自己決定が本人の生命や健康を大きく損ねる場合や、他者の権利を脅かすような場合は、人と環境の相互作用の視点からクライエントとそこに関係する人々相互のウェルビーイングの調和を図ることに努める。

つまり、JFSWは「ソーシャルワーカーはクライエントの自己決定は尊重する。しかし、それは表面的なことにとどまらない。クライエントの自己決定が本人の生命、健康、他者の権利を脅かすと想定される場合、ソーシャルワーカーはクライエントの真の権利を守るためにその自己決定に介入する」と言っています(前嶋の解釈です)。

この条文は、改訂前は「ソーシャルワーカーは、クライエントの自己決定を尊重し、クライエントがその権利を十分に理解し、活用できるようにする。」と前段で終わっていました。それが、今回の改訂で後段が加えられ、上の形になりました。これは、今回の改訂にあたってJFSWに構成された「倫理綱領委員会」における、ソーシャルワーカーがクライエントの利益を真に守るためにはさらに積極的な介入が求められるのではないかとの議論を踏まえたものです。

このように、現在わが国のソーシャルワーク専門職における「利用者の自己決定の尊重」の概念は、表層的なものから実践を踏まえたより深いものに変化してきています。

入所者の非現実的なニーズをどのように捉えて支援するかは、支援者にとって大きな課題です。この場合、ニーズの背景を理解し、現実的な範囲で整合性を図ることが重要です。

ここでは、上のソーシャルワーカーの倫理綱領の改訂経緯などを踏まえて、救護施設で参考にしていただけるであろう対応策を例示します。

「他施設においてどのように対応しているか」については、研究協議会で参加施設に意見を求めてください。

1 ニーズの背景にある真の欲求を探る
(1)ライフヒストリーの把握
表面的な非現実的なニーズの裏には、利用者の過去に満たされなかった欲求、夢、トラウマ、あるいは認知機能の変化が隠されていることがあります。時間をかけて、利用者の生活歴、価値観、文化背景(出身地独特の文化や風習が影響している可能性も考慮してください)を丁寧に聴き取り、記録します。

ご家族や地域の関係者からの情報も有用です。可能ならば、同様に聴き取り、記録してください。

(2)多職種・多角的視点でのアセスメント
社会福祉分野の他、精神、心理領域の専門家(医師、看護師、精神保健福祉士、心理士など)が連携し、そのニーズが精神疾患の症状なのか、認知症によるものなのか、あるいは単なる願望や欲求なのかを多角的にアセスメントします。たとえば、精神医療センターなどの専門機関への相談も視野に入れましょう。

(3)非言語的サインの丁寧な観察
言葉で表現できない欲求が、行動や表情、態度に表れていないかを、日々の生活の中で注意深く観察し、記録に残します。特に非現実的なニーズを訴える際にどのような感情が伴っているのかを把握することが重要です。

2 ニーズと支援内容の整合を図る
非現実的なニーズをそのまま満たすことができない場合でも、以下のアプローチを通じて支援の整合を図ります。

(1)ニーズの「変換」と「代替」
・真の欲求への着目 まず、利用者の「非現実的なニーズ」が満たされることで得られるであろう「真の感情や欲求」(例:承認欲求、安心感、楽しさ、社会とのつながりなど)に焦点を当てます。次に、それを満たすための現実的で代替可能な支援を計画立案します。 例:「宇宙飛行士になりたい」 →背景:「広い世界への憧れ」「特別な存在になりたいという承認欲求」 →ニーズの変換:「未知の世界への好奇心を満たしたい」「何か特別なことを成し遂げたい」

・支援内容の整合性 上の例によれば、宇宙に関するドキュメンタリー番組の視聴、宇宙や天体に関する書籍を読む時間を作る、宇宙に関する絵画や工作活動を行う、プラネタリウムへの外出を計画するなど。 小さな成功体験(例:作品が評価される)を通じて承認欲求を満たす。

・スモールステップでの目標設定 一度に全てを解決しようとせず、現実的な小さな目標から段階的に設定します。最終的な非現実的ニーズに少しでも近づくような、達成可能なステップを細かく設定し、成功体験を積み重ねることで、利用者の意欲を維持します。

3 リスク管理と安全確保を最優先にする
(1)危険性の具体的な説明と理解促進
ニーズの追求が利用者本人や他者に危険を及ぼす可能性がある場合、その危険性を具体的に、視覚的な資料(絵、写真など)や、利用者の認知レベルに合わせた言葉遣い、伝達方法で根気強く説明します。

(2)環境調整と行動制限の最小化
危険な行動につながる可能性のある環境要因を排除し、安全を確保します。 同時に、利用者の行動制限は必要最小限にとどめ、可能な範囲で自由な選択を尊重します。たとえば、特定のものに固執するニーズがある場合、安全な範囲でその物を確保・管理し、利用者が触れる時間を設けるなどの配慮を行います。

(3)専門職による行動介入
精神科医や心理士などの専門職と連携し、行動の原因を探り、必要に応じて薬物療法や認知行動療法的なアプローチが可能か検討します。

4 関係性構築と信頼醸成に時間をかける
(1)傾聴と共感の徹底
非現実的なニーズであっても頭ごなしに否定せず、「〜さんにとってはそれが大切なんですね」「〜さんの気持ちはよく分かります」と共感の姿勢を示し、徹底的に傾聴します。信頼関係がなければ、支援者の言葉は届かないからです。

(2)一貫した対応と根気強い関わり
複数の職員が関わる場合でも、ニーズへの対応方針を統一し、一貫した態度で接します。一度で理解を得られなくても、繰り返し、穏やかに、利用者のペースに合わせて対話を続けます。

(3)ポジティブな関係性の構築
ニーズに関係なく、日々の支援の中で利用者の良い面を見つけ、積極的に肯定的なフィードバックを行うことで、利用者との信頼関係を深めます。

4 その他
救護施設で、利用者が自由に「夢」や「願い事」を書き込める「夢ノート」や「願い事ボード」を設置しているところがあると伺ったことがあります。
職員は、そこに書かれた内容を否定せず、傾聴し、その中から現実的な範囲で実現可能なものを見つけ出し、個別支援計画に落とし込んでいるそうです。
たとえば、「昔住んでいた福岡の〇〇に行きたい」というニーズに対し、Google Earthでその場所を見せたり、関連する写真集を用意したり、可能であれば日帰り旅行を計画したり、といった対応をしていると伺いました。

また、利用者の非現実的なニーズについて「〇〇(非現実的なニーズ)を考える会」を開催されている救護施設があります。この会は、利用者本人の他、担当職員、支援職員、看護師、時にはご家族も交えて行われるそうです。この会の目的は、ニーズの背景にある真の欲求を探るとともに、実現の難しさやリスクを共有し、代替案を一緒に検討することにあるそうです。

これを行われている施設の職員は、「主旨を理解している職員はいいが、家族がすぐ”何をばかなことを言っているのか”と否定的な発言をしてしまうことを防げない」と会運営の困難さを話しておられました。

地域には、その地域に根ざしたNPOやボランティア団体、交流拠点が存在します。利用者の非現実的なニーズに近い活動(例:農業体験、手芸教室、音楽活動など)を提供している団体と連携し、利用者が社会とのつながりを感じられる機会を創出している施設があります。

もし、非現実的なニーズへの対応に成功したら、ぜひ、その事例や職員の工夫を共有する研修会やワークショップを定期的に開催し、職員のスキルアップを図ってください。

この時、認知行動療法やナラティブアプローチなどの専門的な知見を踏まえると、さらに高い効果が見込めると思います。

最後に ~すべてのご質問を振り返って~
救護施設の個別支援計画は、単なる書類作成の義務ではなく、利用者一人ひとりの人生を計画して支え、より豊かな毎日を送るための羅針盤になるものです。

地区救護施設協議会の取り組みが、それぞれの救護施設の利用者の笑顔につながることを心より願っています。

「個別支援計画書を活用した取り組み」 ご質問とコメント(5/6)

九州で救護施設の施設長をされている方から、個別支援計画についてご質問をいただきました。
質問は、研究協議会の開催に当たり分科会での議論に向けて出たものだそうです。
このご質問と、私がお返ししたコメントをご紹介します。

【質問5】施設(利用者)によって自立支援というより、現状維持、安定が目標になることもあり得るが、アセスメント、現計画書でまかなえない範囲が出てくるのではないか。そのような場合、どのように対応しているかお尋ねしたい。

自立支援が困難な利用者において、現状維持や安定が目標となることは当然あり得ます。参加各施設の対応状況については会場で発言を求める必要があります。 ここでは、アセスメントや現行の計画書では対応しきれない範囲への対応策を例示します。

1 現状維持・安定を明確な目標として設定する
(1)「QOLの維持・向上」を最上位の目標にする
自立支援だけでなく、利用者の「QOL(Quality of Life)の維持・向上」を最上位の目標に設定します。これには、心身の安定、苦痛の緩和、尊厳の保持、安心できる環境の提供などが含まれます。たとえば、「毎日穏やかに過ごせる時間を確保する」「好きな活動を継続し、笑顔が見られる頻度を維持する」といった目標設定が考えられます。

(2)リスクアセスメントを徹底する
現状維持を脅かす可能性のあるリスク要因(転倒、誤嚥、感染症、褥瘡、精神状態の悪化、行動障害の出現など)を詳細にアセスメントし、それらのリスクを最小限に抑えることを具体的な目標にします。 たとえば、高温多湿な気候における脱水や熱中症リスク、感染症(特に施設における高齢者の集団感染)リスクへの予防策を計画に明記し、職員全体で共有・実践します。

(3)「安定」を個別的に再定義する
その利用者にとっての「安定した状態」が具体的にどのような状態かを、個別のアセスメントに基づいて再定義します。たとえば、「発熱がない状態」「表情が穏やかな状態」「特定の行動障害が週に〇回以下に抑えられている状態」などと具体的に定義します。

2 アセスメント・計画書でまかなえない範囲への対応
(1)「微細な変化」を重視する、多職種連携で支援する
現状維持が目標の利用者においては、大きな変化は少なくても、小さな体調の変化や表情の変化、食欲の変化など、微細なサインが非常に重要になります。日々の記録では、これらの変化を詳細に記述し、早期に異常を察知できるよう努めます。

医療職(嘱託医師、看護師)と密接に連携することはもちろん、必要に応じて病院や地域の精神科病院、保健所など、外部の専門機関への相談を積極的に行い、専門的視点でのアセスメントや助言を得ます。

(2)「行動の背景」を継続的に探究する
特定の行動(徘徊、拒否、独語など)が個別支援計画に記載された支援で解決しない場合、その行動の背景に隠された身体的・精神的な苦痛や欲求がないかを継続的に探ります。たとえば、特定の時間帯に落ち着かない場合、その時間帯の室温や光の入り方、他の利用者の状況など、環境要因を細かく観察します。

(3)緩和ケア的な視点を取り入れる
救護施設ではあまり見られませんが、もし終末期や重度化により自立支援が困難になった場合は、緩和ケア的視点を取り入れ、身体的・精神的苦痛の緩和、尊厳の維持、心地よさの追求を個別支援計画の中心に据えることも検討します。たとえば、好みの音楽を聴く、アロマセラピーを取り入れる、好きな食べ物を少量でも提供するといった、QOL向上に資する支援を計画に盛り込むことが考えられます。

(4)危機管理計画と地域連携
現状維持が目標であっても、急変のリスクは常に存在します。施設には具体的な緊急時対応マニュアル(危機管理マニュアル)があると思います。これを個別支援計画と連動させて職員全員で共有します。地域の消防署、協力医療機関などとの連携体制を事前に確認します。スムーズな対応ができるように訓練が実施できれば最善です。

(5)介護ロボットやIoTの活用を検討する
福祉施設でも導入が進みつつある見守りセンサーや排泄センサーなど、介護ロボットやIoT技術を導入することで、利用者の身体的負担を軽減し、かつ職員の見守り負担を軽減できます。これにより、よりきめ細やかな個別支援に時間を充てることができます。

「個別支援計画書を活用した取り組み」 ご質問とコメント(4/6)

九州で救護施設の施設長をされている方から、個別支援計画についてご質問をいただきました。
質問は、研究協議会の開催に当たり分科会での議論に向けて出たものだそうです。
このご質問と、私がお返ししたコメントをご紹介します。

【質問4】達成度について、数値化できないものをどう判断しているのか、どの時点において達成とされているのかお尋ねしたい。

数値化できない支援目標の達成度をどのように測るかは、個別支援計画の実行段階におけるテーマのひとつです。救護施設の現場で実践しやすい方法を提案します。

1 数値化できない目標を「見える化」する
(1)行動の具体化とスケーリングを行う
「精神的に安定する」といった目標を、「週に〇日、穏やかな表情で過ごす時間が増える」「特定のイライラする状況において、自らクールダウンできる行動(例:深呼吸、好きな音楽を聴く)を選択できる頻度が、〇回/週から△回/週に減少する」など、具体的な行動に落とし込みます。さらに、その行動の程度を5段階評価などでスケーリングし、変化を物理量的に把握できるようにします。

(2)質的変化の記述とエピソードの記録を行う
単なる回数だけでなく、利用者の表情、声のトーン、態度、周囲への反応といった「質的な変化」を具体的に記述します。「以前は〇〇だったが、最近は△△な様子が見られるようになった」といった比較表現も有効です。 「○○さんが、久しぶりに笑顔で、昔住んでいた佐賀の故郷の話をしてくれた」など、印象的なエピソードを記録し、その変化の背景や意味を多角的に分析します。

(3)ポジティブな変化に注目する
小さな変化や、以前には見られなかったプラスの兆候を積極的に捉え、「〇〇ができるようになった」という視点で評価します。

2 達成と判断する時点を決める
(1)「評価指標」の事前設定
目標設定の段階で、「達成」と判断するための具体的な評価指標(行動の内容、頻度、質、期間など)をあらかじめ明確に定めておきます。これは、「なにをもって目標を達成したと見なすか」を、支援に当たる職員全員で共有するということです。

(2)多職種カンファレンスでの総合判断
定期的なカンファレンスでは、担当職員の観察記録だけでなく、可能であれば看護師のバイタルサイン、作業療法士の活動参加状況、心理士の面談記録など、多職種からの情報を総合的に判断します。この際、客観性を保つために、複数の職員が同じ評価指標に基づいて評価し、意見を擦り合わせることが重要です。

(3)利用者の自己評価・家族からの情報
意思疎通が可能な利用者には、目標達成度について自己評価を促し、その意見を尊重します。また、家族との情報共有を密にし、施設外での利用者の様子も達成度判断の重要な情報源とします。たとえば、遠隔地に住む家族に対しては、オンラインでの面談なども活用して、情報交換の機会を増やすことが考えられます。

(4)「定着/習慣化」の確認
一時的な行動の変化だけでなく、その変化が「定着/習慣化」しているか、継続的に見られているかを評価の基準とします。目標期間終了後も、その状態が持続しているか、モニタリングを続けます。

「個別支援計画書を活用した取り組み」 ご質問とコメント(3/6)

九州で救護施設の施設長をされている方から、個別支援計画についてご質問をいただきました。
質問は、研究協議会の開催に当たり分科会での議論に向けて出たものだそうです。
このご質問と、私がお返ししたコメントをご紹介します。

【質問3】作成しなければならない書類が多く、「作る」作業に追われている印象があり、ほかの施設ではどのように運用、作成をされているのかお尋ねしたい。

書類作成の多さに「作る」作業に追われているという印象は、救護施設に限らず全国の福祉施設が抱える共通の課題です。「ほかの施設でどのように運用、作成をされているか」については、研究協議会の参加施設に意見を求めていただくことにして、ここでは、救護施設で導入しやすい効率化のアイディアを提示します。

1 計画作成プロセスにおける効率化
(1)「ながらアセスメント」を組み合わせる
個別支援計画のアセスメントのために特別に時間を設けるのではなく、日々の支援の中で利用者の様子を観察し、気づきをメモする「ながらアセスメント」を職場全体で行いまます。たとえば、食事の時間や、地域行事への参加を通して見られた利用者の変化などを、気づいた人がメモします。このように、日々の業務の中にアセスメントを組み込みます。

これと、アセスメントのために設けた時間で集中的に行われる通常のアセスメントを組み合わせ、その結果を「アセスメントの結果」としてアウトプットします。

(2)情報共有を定例化、即時化する
朝礼や夕方の引継ぎの活用 短時間で利用者の状況や気づきを共有する場を設けます。口頭での共有だけでなく、電子掲示板や共有フォルダに即時に入力できる体制を整えると、後から個別支援計画に反映しやすくなります。

チャットツールやグループウェアを活用する 支援システムやビジネスチャットツール(例:Slackなど)を活用し、利用者に関する共有事項や気づきを職員間でリアルタイムに共有できるようにします。これによって、書類作成時にわざわざ情報収集する手間や、文字入力の手間を省略することができます。

こうして共有された情報は、上の「ながらアセスメント」でも活用できます。

2 役割分担の明確化と権限委譲
(1)担当職員が個別支援計画書(案)の大部分を作成す
利用者を最もよく知っている担当職員が個別支援計画(案)の大部分を作成します。それを、他の職員や管理者がチェック・修正するようにします。

多くの救護施設では、担当職員が個別支援計画を作成する仕組みになっています。一方で、日常の支援を行う職員とは別に、個別支援計画を作成する担当者を置いている施設もあります。どちらの方法を選ぶかは施設ごとに決めます。いずれの方法でも、個別支援計画の作成は、基本情報、利用者の希望・要望、アセスメントといったパートごとではなく、全体をひとりの職員が案出して、それをその他の職員がチェックする形で進めることをお勧めします。これによって職員各々の役割と権限が明確になり、すべての職員が個別支援計画の作成により深くコミットできるようになります。

(2)定型業務を自動化/簡素化する
定期的な身体測定記録やバイタルサインの入力など定型的なデータ入力は、可能な限り自動化するか、一覧表を作成して記入するなど最小限の入力で済むようにフォーマットを工夫しましょう。

3 書類作成技術の効率化
(1)テンプレートを細分化する、入力補助機能を設ける
基本的な計画書のテンプレートに加え、課題別(例:対人関係、服薬管理、金銭管理など)のテンプレートを用意し、必要な部分だけを選択して活用できるようにします。

また、ドロップダウンリストやチェックボックス、過去の記載内容からの引用機能などを活用すると、入力の手間を最小限に抑えることができます。

(2)音声入力やAIツールを活用する
スマートフォンやPCの音声入力機能を活用して口頭でシステムに入力することで、タイピングの手間を省くことができます。この仕組みを活用して、日本語で支援記録を作成することが困難な外国籍の介護職員でも記録を作成できるようにした施設があります。

将来的には、アセスメントや日々の支援記録から自動的に個別支援計画が案出されるようなAIツールが登場することも十分予想されます。最新の情報をフォローアップしましょう。

(3)他施設と共同研究・開発を行う
九州地区の複数の救護施設が連携して、共通の電子記録システムや個別支援計画のフォーマットを開発・導入することで、費用負担を軽減しつつ、より地域の実情に合った運用体制を構築できる可能性があります。

「個別支援計画書を活用した取り組み」 ご質問とコメント(2/6)

九州で救護施設の施設長をされている方から、個別支援計画についてご質問をいただきました。
質問は、研究協議会の開催に当たり分科会での議論に向けて出されたものだそうです。
このご質問と、私がお返ししたコメントをご紹介します。

【質問2】
意思疎通が困難な利用者の支援に対して、どのように個別支援計画に落とし込み実施しているか、事例があれば参考にしたい。

意思疎通が困難な利用者への支援は、非言語的コミュニケーションの理解と多角的な情報収集がカギになります。
以下にお示しするのはあくまでも一般論です。救護施設で参考にしていただきやすい事例を選んで示します。

事例1 重度の知的障害と自閉スペクトラム症を併せ持つAさん
1 利用者の状況
Aさん(40代、女性)は、重度の知的障害と自閉スペクトラム症があり、発語がほとんどありません。突然大きな声を出す、特定の場所から動こうとしない、特定の物に固執するといった行動特性が見られます。感情表現が乏しく、体調不良や不快感を周囲に伝えることが難しい状態です。

2 アセスメントのポイント
(1)詳細な行動観察記録を行う
「いつ」「どこで」「誰と」「何をしていたか」を細かく記録し、行動の先行事象と後続事象を分析します。その際、気候や季節のイベント(お祭りなど)が行動に影響を与えていないかも確認します。

(2)非言語的サインをリストアップする
言葉にならない発語、微細な表情の変化、体の揺れ、指差し、視線、呼吸の変化など、Aさんが示す非言語的なサインをリストアップし、職員間で共有します。

(3)感覚特性を把握する
特定の音や光、匂い、肌触りに対する過敏さや鈍感さをアセスメントし、環境調整に活かします。

(4)過去の支援記録やご家族など関係者から情報を得る
過去の支援記録やご家族など関係者からの情報(好きな食べ物、落ち着く場所、嫌がる音など)を徹底的に掘り起こします。

3 支援目標(例)
(1)短期目標(たとえば3ヶ月)
「不快な感情」や「体調の異変」を、絵カードや指差しで示すことができるようになる。

(2)中期目標(たとえば6ヶ月)
特定の行動(大声を出すなど)が減少した際に、代替となる安心できる行動(落ち着ける場所へ移動する、好きな音楽を聴くなど)を選択できるようになる。

(3)長期目標(たとえば1年)
日常生活の中で、職員がAさんの要求や不快感を80%以上予測できるようになり、先回りした支援ができる。これにより、(1)(2)の段階で見られた課題が発現することなく過ごすことができるようになる。

4 具体的な支援内容(例)
(1)コミュニケーション支援  絵カード・写真カードの導入
日常生活でよく使う言葉や行動(「食事」「トイレ」「散歩」「横になる」「嬉しい」「嫌だ」「痛い」など)を絵カードやAさんの好きなキャラクターのイラスト付きカードにし、常に携帯できるようにします。そのカードを職員も積極的に使用し、Aさんの選択を待ちます。

(2)視覚的スケジュールの活用
1日の流れを写真やイラストで示し、Aさんが次の行動を予測できるようにします。季節行事(夏祭り、運動会など)も視覚的に提示し、参加への見通しを持たせます。

(3)身体接触・タッチング
Aさんが安心できる程度の、穏やかなタッチング(肩を軽くたたく、手を握るなど)をコミュニケーションの一環として取り入れ、安心感を与えます。

(4)スモールステップでの応答練習
小さな欲求(例:「水が飲みたい」)から、絵カードを使った選択練習を繰り返し行い、成功体験を積み重ねます。

(5)行動支援と環境調整 行動の機能分析に基づく対応
大声を出すなどの行動が生じた場合、その行動が何らかのメッセージ(例:不快感、退屈、要求)であると捉え、記録と分析からその機能(目的)を特定し、その機能を満たす代替行動を提示します。

(6)感覚刺激への配慮
特定の音や光に過敏な場合、ヘッドホンや薄暗い空間を提供する、香りの強い洗剤の使用を控えるなど、環境を調整します。外出時には、日差し対策を行ったり、日中の活動場所への配慮も重要です。

(7)「安心できる場所」の設定 
施設内にAさんだけが落ち着いて過ごせる小部屋やスペースを設け、ストレスが高まった際にいつでも利用できるようにします。

(8)一貫した対応と支援者の固定化
複数の職員が関わる場合でも、Aさんへの声かけ、行動への介入方法、ジェスチャーなどを統一します。可能であれば、Aさんの担当職員を固定し、きめ細やかな観察と支援を行います。

5 モニタリング
(1)日々の行動記録と評価
支援記録は、目標達成度だけでなく、Aさんのわずかな変化や、支援方法の効果を客観的に判断するための重要な情報です。

(2)定期的なカンファレンス
施設内で行う月例のカンファレンスで、Aさんの状態変化や支援計画の妥当性について多角的に検討します。その際、福祉事務所や医療機関、障がい者相談支援センターなど、地域の専門機関の参加が求められればなおよいでしょう。さらに、精神科医、心理士、作業療法士などの助言が得られれば最善です。

6 スーパービジョン
意思の疎通が困難な利用者に対する具体的な支援技術としては、視覚教材や言語以外のコミュニケーション手段を活用したり、ゆっくりと分かりやすい言葉で話したり、専門家によるアセスメントや介入を取り入れることなどが考えられます
しかし、こうしたことを理解していても、意思疎通が困難な利用者の支援は、本人の意思を最大限尊重することを前提とした現在のソーシャルワークの価値観の元では、職員に多くの負担とディレンマを感じさせます。職員は、利用者の特性や状況を理解し、適切な方法でコミュニケーションを図り、必要な情報を提供しようとしますが、そのようにして行っている実践が、果たして正しいのか、利用者のためになっているのか自省し葛藤することがよくあるためです。
このような時、施設にスーパービジョンの仕組みがあると、職員はより客観的に自らの実践を振り返ることができ、葛藤や悩みを軽減できます。
また、スーパービジョンの仕組みを設けておくことで、職員それぞれが法事の理念や施設の支援方針に沿った支援計画を作成しそれに沿った支援を行うことができるようになります。これにより施設の実践力を高めることができるようになります。

※本文で「スーパーバイザー」は、施設の管理者と実際に利用者の支援を行う職員の間に立ち、組織の理念に沿って現場で支援を行う職員を支える「中間的管理職」と位置付けています。これは、アルフレッド・カデューシンの定義に拠ります。

「個別支援計画書を活用した取り組み」 ご質問とコメント(1/6)

九州で救護施設の施設長をされている方から、個別支援計画についてご質問をいただきました。
質問は、研究協議会の開催に当たり分科会での議論に向けて出さたものだそうです。
このご質問と、私がお返ししたコメントをご紹介します。

【質問1】
各施設において個別支援計画の記入方法や文言の統一など、具体的に設定されているルールがあれば参考にしたい。

記入方法や文言を、施設や地域内で統一する主旨
個別支援計画作成において、記入方法や使用する文言などに一定のルールを設けることは、質の高い個別支援計画を作成する際の基本です。

適切に整理されたルールは、正しい様式の活用につながります。
様式を正しく活用することで個別支援計画書の主旨に合った支援計画の作成がしやすくなります。
また、個別支援計画(案)のカンファレンスや、施設内外で行われる研修や実践研究での共有が容易になることで、作成者以外の知見を個別支援計画に反映できるようになります。
質の高い個別支援計画は、作成する職員個人の力量だけでなく、施設内で行うカンファレンスでの検討、スーパービジョンにおけるスーパーバイザーからの助言、施設内外で行われる実践研究(事例研究)や研修会などでの発表や協議によって実現されます。
これらを通じて、職員や施設、ひいては地域の実践力を向上させることが期待できます。

本項では、一般論として個別支援計画の作成について設定した方がよいと思われるルールを示します。地区の各救護施設で設けられている個別具体的なルールについては、この分科会に参加されている施設からのご発言によって共有してください。

1 記入項目の明確化と様式統一
(1)地域での多機関多職種の連携を意識した項目設定
様式の各項目は、それぞれの施設の活動エリア内にある他の機関(医療機関や相談機関など)との連携を視野に入れて、共通して必要となるであろう項目設定や理解しやすい記入方法についてあらかじめ検討し消えておく必要があります。
たとえば、「基本情報」には、緊急連絡先、既往歴、服薬状況などを記入します。その際、利用者を支援する場合に連携することが想定される相手が求めるレベルを意識して情報を盛り込む必要があります。
また、以前に伝えた情報が変った場合、連携先にできるだけ早く新しい内容を伝えることも必要です。これらのことで多機関多職種の連携がスムーズに行えます。またこれを継続することによって施設から発信する情報の信頼感も高められるでしょう。

多機関と情報を共有する場合は、用語が相手の分野ごとに意味が異なる可能性があることに留意して取り違えがないようにしなければなりません。
この配慮は施設から他の機関だけでなく、他の機関から施設についても相互に行われる必要があります。
たとえば、入所時に病院から送られてきたサマリーに「歩行可能」とあれば、救護施設は「外出時の介助は必要ない」と受け止めるでしょう。しかし、病院の意図は「病棟内の廊下を一人で歩くことができる」といった程度の自立度であるかもしれません。この時、救護施設が病行からの「歩行可能」という申し送り内容を誤解したまま利用者の介助計画を組むと、外出行事の際に利用者が集団の速度に合わせて歩くことができず苦痛を感じるかもしれません。
このような意味の取り違えを避ける方法としては、ICF(国際生活機能分類)の表現を援用することなどが考えられます。ICFは、医療、保健(リハビリ)、福祉の3分野における共通言語にすることを意図していますので、こういう場合役に立つでしょう。

なお、それぞれの救護施設で個別支援計画書の記入方法について検討される際には、厚生労働省から令和6年10月1日に発出された『救護施設及び更生施設における個別支援計画の作成について』(社援発1001第4号)、および『個別支援計画の作成に関するQ&A』もあわせてご覧いただくようお願いします。

(2)文言の統一と標準化
①専門用語の平易化
個別支援計画は、福祉事務所など他の機関や施設内外のさまざまな職種の目に触れます。作成にあたっては、できるだけ専門用語を避けて分かりやすい言葉で記載することを心がけましょう。定義された用語を使う必要がある場合など専門用語を用いる場合は、必要に応じて補足説明を加えるとよいでしょう。

②標準的な用語で記入する
また、各地の救護施設では、それぞれの地区特有の用語や表現が見られます。さらに「利用者の希望・要望」などに記入される利用者各々の発言が「方言」で記述されている例も見られます。基本は、法律や制度の実施要項などに記されている標準的な用語で記入することです。その上で、地区特有の用語や表現、あるいは方言での記述が必要と考えた場合は、その用語について説明を補足するなどの配慮が必要になるでしょう。

③肯定的・具体的な表現をルール化する
個別支援計画書に関する記述方法は、ストレングス視点で行うことをお勧めします。 すなわち、「〜ができていない」ではなく「〜ができるようになるために〇〇を支援する」といった肯定的表現をルール化します。

よく誤解されることに、肯定的表現は人権上の配慮だというものがあります。
救護施設における支援のあらゆる場面で人権上の配慮は最優先事項であることは論を待ちません。しかし、ここで肯定的表現をルール化しようという主旨は、人権上の配慮がおもな理由ではありません。それは、「〇〇ができる」と肯定的に書くことで、どこから支援が必要か(すなわち、「〇〇」以降に支援が必要ということです)という「介入ポイントが明確にできる」からです。

また個別支援計画における表現は、「頑張る」といった抽象的な書き方ではなく、「〇〇の活動に週に3回参加する」など具体的で測定可能な書き方にしましょう。利用者、支援者ともに、行われる(行う)支援が理解しやすくなります。

④施設内用語集の作成と共有
施設内で頻繁に使う支援内容や行動表現について、統一した定義や使用例をまとめた用語集を作成し、職員全員で共有することをお勧めします。

この作成に充てられる職員がいない場合は、外部の専門家に依頼するのもひとつの方法です。専門家の例として、施設の状況をよく知る社会福祉士などが挙げられます。社会福祉士は法律で守秘義務が課せられていますが、こうした業務を委託する場合は必ず秘密保持契約を締結するなどして、業務上の秘密が守られることを実質的に担保する他、外形的にも明らかする必要があります。
こうして作成された用語集は、新人職員などの研修資料としても役立ちます。

(3)必須項目と任意項目の区別
個別支援計画書の様式には多くの記入欄があります。特にアセスメントシートにはたくさんの項目があり、項目を埋めるだけで大変だという声も聞かれます。

しかし、個別支援計画書の作成は記入欄を埋めることが重要なのではありません。たとえば、全救協版救護施設個別支援計画書には、個別支援計画を適切なものにするために必ず記入しなければならない項目(必須項目)と、必要に応じて記入する項目(任意項目)があります。施設でルールを作る場合は、まず、その施設の状況に応じて支援に不可欠な「必須項目」を明確にしましょう。そして、それ以外の項目は「任意項目」として、必要に応じて記載することにします。このようにメリハリをつけると個別支援計画を作成する際の効率が高められます。

この「必須項目」と「任意項目」の選別は、1)入所者の状況と個別支援計画書の様式の両方に詳しい職員が下案を作る。2)それを、個別支援計画書を作成するすべての職員で検討する。といった2段階の手続きを経ることで、手早く実用的なものを作ることができるでしょう。

(4)適切なICTの活用
個別支援計画の作成をコンピュータ化することによるメリットは計り知れません。きちんと設計されたコンピュータシステムを導入することで、個別支援計画の作成と検討を大幅に合理化できます。さらに、それによって得られたマンパワーを直接支援に投入することができるようになります。
しかし、どれだけコンピュータ化を進めても、直接支援の「最後の1マイル」は職員自身の手によって行われることに変わりはありません。コンピュータ化は、それ以前と同じ職員数で直接支援に投下できるマンパワーが増強できるのですから、コンピュータ化を進めることに議論の余地はありません。

一例として個別支援計画の作成におけるコンピュータ化の具体的な利点を挙げると、入力内容を固定できることが挙げられます。施設で設定した用語リストが個別支援計画の作成時や支援記録の入力時にサジェストすることで、記入される言葉や表現を一定程度統一することができ、作成される個別支援計画や支援記録の精度を高められます。また、言葉や表現が統一されていると、後になって実施した支援を検索したり、実施した支援を統計的に整理する必要が生じた際の処理が極めて迅速に行えるのもコンピュータ化の利点です。

画面上では、紙媒体と比較して未記入の欄がはっきりとわかります。この特徴により記入漏れを防ぐ効果が期待できます。コンピュータを使うと記入内容の更新も簡単ですし、それを、誰がいつ更新したかの履歴も通常は自動的に記録されます。

適切なコンピュータシステムは、「施設と利用者の状況」「個別支援計画」「コンピュータシステム」の3つの視点で検討します。単に「コンピュータを購入した」「システムを導入した」だけでは、現場で使いやすいシステムにはなりません。現用のシステムが「なんとなく使いづらい」と感じている施設のほとんどで、この3つの視点のいずれかが不足しています。

(5)地区での事例共有と研修会の実施
①地区救護施設協議会などでの情報交換
地区救護施設協議会や県ごとに行われる個別支援計画に関する集まりは、よりよい支援の実現に向けて成功事例や課題を共有し、解決の糸口を見出すことを目的として行われます。
一方で、これらの機会に、実際に使用している個別支援計画の様式や記入ルールを持ち寄り意見交換を行うことで、記入項目の検討や用語・ルールの統一のための知見を得ることができます。参加を通じて、自施設に合ったルールを見つけるヒントが得られるでしょう。

②研修会、カンファレンス、スーパービジョンの実施
新任職員、ベテラン職員を問わず、定期的に個別支援計画の作成に関する研修を実施する中で、記入方法や文言統一のルールもあわせて説明し、その趣旨と具体的内容を徹底します。先進的な取り組みを行っている施設の担当者を講師として招くのも効果が期待できます。

職員が作成した個別支援計画は、必ず施設内の支援者チームでカンファレンスを行い、その内容を検討してから利用者に提示します。その際、記入方法や文言にルールどおりでないところがあれば指摘して修正するようにします。

施設でのスーパービジョンにおいて、スーパーバイジーが自分の実践について説明する場合にも、スーパーバイザーは記入方法や文言がルールどおりになっているかを確認します。しかし、スーパーバイザーは、スーパーバイジーの記入方法や文言の扱いがルールどおりでなかったとしても、通り一遍に修正を求めるのではなく、なぜそのように記入したのかをスーパーバイジーに確認します。スーパーバイジーは自らの記入方法や文言の扱いを言語化することを通じて、これを統一することの主旨を理解します。このことがよりよい個別支援計画を作成できる力量の向上につながります。

適切で、予防的で、関心を持ってもらえるものを

よい個別支援計画って、どんなものだろう。

1)今の課題を解決するのに適切なもので、
2)これから起こるかもしれない問題を未然に防ぐ視点が含まれているものであり
3)かつ、計画の内容やこれによって行われる支援に、当事者として関心を持ってもらえるもの、さらにいえばクライエントに主体的に取り組もうと思ってもらえるもの。

こういうものが「よい個別支援計画」じゃないかな。

生活保護基準引下げ処分取訴訟 「この後、どうなるんだろう」

生活保護基準引下げ処分取消等請求訴訟の最高裁判決が、本年6月27日言い渡された。

この訴訟のおおまかな経緯は次のようなものである。
(1)厚生労働大臣が、2013年から2015年の生活扶助基準を改定した。
(2)これを受けて、今回被告となった市の福祉事務所長らは、原告らに生活扶助の支給額を変更する旨の保護変更決定を行った。
(3)原告らは、この改定が違法であるとして次の2つを求める訴訟を起こした。
・被告である市は、上記支給額を変更する旨の保護変更決定を取り消せ。
・国は損害を賠償しろ。

その判決内容が、こちら。
・自治体による保護変更決定処分を取り消す。
・原告らの国に対する損害賠償請求を棄却する。

厚生労働省は、この判決について判決の日に大臣名で次のコメントを出した。
「厚生労働省としては、司法の最終的な判断が示されたことから、今回の判決内容を十分精査し、適切に対応してまいります」

以下、感想である。
私がいま抱いていることを率直にいうと「この後どうなるんだろう」である。

生活保護の基準は生活保護以外のさまざな制度と密接に関係している。
生活保護基準が変わると、これらも影響を受ける。
たとえば、「中国残留邦人等に対する支援給付」や、文部科学省所管の「特別支援教育就学奨励費」の額は生活保護基準を参照している。
これついて、少し前に厚生労働省がまとめた「生活扶助基準の見直しに伴い他制度に生じる影響について」によると、影響は公のものだけで50近くに及ぶという。

つまり、判決への対応だけを考えるならば、扶助費を減額していた分を追加して支給すればいい(これは言い過ぎである。もちろんそんな単純なものではない。しかし、これだけでも、対象者をどう決めるのか、事務をどこがするのかなど課題は山積みである)。

しかし実際は、これに加えて複数の省庁が所管するさまざまな法律や制度が影響を受けるのである。この調整も必要になる。
こうした調整には時間と手間がかかる。
一方で、その中でも状況は時々刻々と動いていく。

今回の判決によって、減額分が支払われることになったとして、その対象になるのは裁判の原告だけなのか、それとも当時の生活保護受給者全てなのか。
受け取る資格があるのは、現在存命中の人だけなのか。だとすれば基準日はいつなのか。

下世話な話だが、これらについてどこかで線引きをすれば、その前後で「得をする」「損をする」人が必ず現れる。
この線引きは、最後は政治の判断にゆだねられるのだろうが、その政治判断は世論に押されて必ずしも安定していない。仮に、判断を示す時点で「生活保護バッシング」の世論が強まっていたら、対象者に厳しい判断が行われかもしれない。もちろん、反対のケースもありうる。

こうした複雑多岐にわたる制度の調整と決定を、容赦ない時間の経過に置いていかれないよう迅速に行うことが、今回の判決後に求められるのだ。

私が「この後、どうなるんだろう」と思うのは、そういうことである。

生活保護基準引下げ処分取消等請求訴訟の最高裁判決について(厚生労働省報道発表)

生活保護基準引下げ処分取消等請求訴訟の最高裁判決が、本年6月27日言い渡された。
これについて、厚生労働省は次のように報道発表した。

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生活保護基準引下げ処分取消等請求訴訟の最高裁判決について

生活保護基準引下げ処分取消等請求訴訟(第1審:大阪地裁及び名古屋地裁)について、本日、最高裁判所で判決が言い渡されたので、お知らせします。

1.判決言渡しのあった裁判所及び年月日
最高裁判所 令和7年6月27日

2.訴訟の内容
厚生労働大臣は、平成25年から平成27年にかけて、生活保護法による保護の基準(保護基準)中の生活扶助基準の改定(本件改定)を行い、被告各市の福祉事務所長らは、原告らに対し、本件改定を理由として、生活扶助の支給額を変更する旨の保護変更決定を行った。本件は、原告らが、本件改定は違法であるなどと主張して、
①被告各市を相手に上記保護変更決定の取消しを求めるとともに、
②被告国に対し国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めたもの。

3.判決の内容
自治体による保護変更決定処分を取り消す。
原告らの国に対する損害賠償請求を棄却する。